セットを作成してスタジオで撮影を行うスタジオ撮影ではなく、ロケーションでの撮影、通称「ロケ撮影」を選択することで、よりスムーズで費用を抑えた撮影が行えるケースがあります。
ロケーションは、歩道、海、公園などの屋外だけでなく、飲食店、駅、オフィスビルなど様々で、留意点もそれぞれに異なります。安全な撮影を行うために、十分な注意と準備が必要です。
今回は、どのような手順でロケ撮影を行うか、CM制作現場でのロケ撮影の流れをベースに、ご紹介させていただきたいと思います。
案件の規模にもよりますが、CM制作のロケ撮影の一般的な流れはこのようになります。
ロケ地探し
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プレロケハン
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スタッフロケハン
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撮影準備
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ロケ撮影
演出のイメージ、予算に合わせて適切なロケ地を探します。この段階でロケ撮影orスタジオ撮影が決定していない場合もよくあります。ロケ撮影とスタジオ撮影の見積もりや仕上がりの比較をして決定するのです。
現在は検索サイトを使用して探すことが多いです。ロケーションをまとめている便利なサイトがありますので、活用するとロケ地探しがスムーズです。
また、ロケ撮影の箇所が多い場合、海外や地方でのロケ撮影の場合など、案件によっては「ロケーションロケコーディネーター」に頼む方法もあります。
ロケーションコーディネーターは、ロケ地を探したり、撮影に至るまでのさまざまな手続きや撮影時のサポートをトータルで行ってくれるサービスを提供します。費用は発生しますが、ロケをするにあたっての諸々の手続きや準備をしてくれるため、なじみのない場所でも安心してロケを行うことができます。
「ロケハン」とは、実際に撮影をする前に、撮影で使用する場所を事前に下見することをいいます。もともとは「ロケーション・ハンティング」の略称から生まれた和製英語であり、主に映画やテレビ、雑誌など映像や写真を扱う業界で広く使われています。
また、ロケハンを更にこの様に分けて呼ぶ場合があります。
「プレロケハン」
→ ロケ地探しの段階で、主に制作スタッフのみが現地に行き下見をすること。ディレクターやクライアント提案の前に現地に行って撮影に適しているかなどの確認を行い、写真や動画などで記録する。
「スタッフロケハン」
→ ある程度、現実的に撮影が可能な場所に候補地が絞られた段階で、クリエイティブチームやディレクター、カメラマン、照明部などの技術スタッフとともに現地の下見を行い、詳細の相談を行う。
案件によっては、プレロケハン、スタッフロケハンのどちらかで良い場合もありますし、ロケハン自体がない案件もあります。ない場合は、現場入りしてからのアングルチェックに時間が必要です。
ロケハンのタイミングは、プレロケハンは演出の方向性が見えてきてロケ撮影の可能性が出た段階で、スタッフロケハンはPPM*の手前に行うことが多いです。スタッフロケハンを行えば、撮影スタッフと撮影の流れが具体的に相談できますので、撮影香盤や発注する機材が決まっていきます。
*PPM:プリプロダクション(Pre Production Meeting)の事で、広告主や広告会社、制作会社の責任者やスタッフが撮影に入る前に行う最終確認の為の会議の事です。 ここで確認する事は、企画・制作意図・演出・出演者・セットデザイン・ロケ地・衣装・小道具・音楽・スケジュールなどです。
ロケハンは、当日のシナリオを見て具体的な動きを想定し、じっくり下調べを行うので、撮影場所を確認して終わりではありません。以下の2つの観点での確認をしっかり行うことがポイントになります。
①「イメージの確認」
演出コンテを参考に、どのカットをどこで撮るかを丁寧に確認していきましょう。人物を撮る場合は、スタンドインが仮に立ち位置に立って、画角をみていくことがほとんどです。
イメージする映像が撮れるか、何時ごろの撮影がベストかを確認していきます。
日のまわりは、香盤に大きく関わってきます。日のまわりは、屋外撮影だけでなく、室内撮影でも窓が映る場合などには気をつけなければなりません。
ロケーションのスペースの広さも撮影時に重要な要素です。カメラの引きじりが取れない、必要な撮影機材やスタッフが入るだけのスペースがない場合もよくあります。技術スタッフと出来る限り具体的な打ち合わせを行うことが大切です。
②「安全面の確認」
撮影をする上で安全は第一です。また、コンプライアンスの観点でも安全かを確認しましょう。
ロケーションで確認しておくべき点
・機材の搬入ルート、機材の置き場
・養生は必要か
・通行する人や車はあるか(場合によっては警備員を配置)
・許可申請が必要か
・映ってはいけないものがあるか など、、
特に安全面においては、撮影に関わる全スタッフに気をつけていただかなくてはなりません。念入りに確認し、全スタッフに共有すべき連絡事項は、事前に伝えておき、更に現場でも声をかけて、細心の注意を払いましょう。
建物などを一時的にお借りして撮影を行う場合は、管理されている担当の方とのコミュニケーションをきちんととることが大切です。入りと撤収の時間、金額の相談はもちろん、撮影の内容(守秘義務には注意)、スタッフや機材のボリューム感なども事前に話しをしておくと良い場合があります。
その際、そのロケーションで過去に撮影を行ったことがあるかなど聞いておくと良いでしょう。例えば、店舗をお借りして撮影を行う場合、CM撮影の経験、実績のあるロケーションですと、スタッフや機材の多さをざっくりととイメージしてもらうことができますが、撮影が初めての場合、撮影の当日に機材の量、スタッフの多さに驚かれることがあります。特に、ドラマや番組ロケと、CM撮影のスタッフのボリュームは違うかと思います。クライアント、代理店のスタッフの方も現場でモニター確認されたり、カメラの特機、照明の数も比較的多くなります。認識の違いにより、事前の話し合いも実は噛み合っていなかった、ということも起こりうるので、なるべく、規模感や当日の動きを事前に伝えておくことが、ロケ撮影を気持ちよく利用する上でのコツかもしれません。
また、映してはいけないもの(建物や作品など)がある場合もありますので、著作権や肖像権を侵害する恐れがないか、ロケハン時に確認しておくことも大事です。撮影本番までに対策を考えましょう。
ロケハンが終え、ロケ場所が決定したら、準備を進めます。
撮影許可申請をとる
場所によっては許可申請が必要なところがあります。道路や公園などの公共の場所は大抵の場合必要です。申請には2週間ほどの日数を要する場合がありますので、事前によく調べておくことが大事です。
その他撮影準備は、スタジオ撮影とおよそ同様の手順になります。
忘れ物のないように、気をつけて準備をします。
荷物の運びやすいように工夫したり、極力コンパクトになるようにした方が良いでしょう。
どれほど準備をしても想定外のことが起こることはありますが、その場合も落ち着いて対処出来るほどの余裕を事前に準備しておくことが大事です。
天候予備日について
屋外のロケ撮影ですと、天候が気になるところです。
何時に天候判断をするか、また、キャンセル料の発生についてなどは事前に各所相談しておくと安心です。
現状復帰を忘れず
ロケーションに入ったらスマホなどで写真を撮っておくと便利です。後片付けの際に、写真と照らし合わせて、現状復帰をしましょう。また、撤収の際はゴミや忘れ物がないように、数人で二重に確認すると良いでしょう。
ロケーションを貸してくださった方にご挨拶とお礼をきちんとお伝えして、無事終了です。
いかがだったでしょうか。
担当者や案件によって進め方は様々ですが、CM業界では基本的にこのような形でロケ撮影を進めております。
安全にロケ撮影を行うには現場で起こりうることを色々と想像しなければなりません。
スタジオでの撮影と同じことが言えますが、ロケーション撮影ですと、天候など、外的な要因がより多くあり、当日に何が起こるかわかりません。
繰り返しになってしまいますが、どれほど準備をしても想定外のことが起こることがあります。その場合も落ち着いて対処出来るほどの余裕を事前に準備しておくことが大事です。
とにかく「安全第一」です。
これからロケ撮影をされる方に、今回ご紹介した内容が少しでも参考になれば幸いです。